高専数学まとめノート@はてなブログ

解法のエッセンス。数学のトピックス。

高専の数学2 練習問題14の問5(1)で立ち止まってみる

当時、自分も高専の数学シリーズを使って授業を受けていたんだけれど、全体的にサクサクっと読み進めたなあという感想しかない。けれど、ここ1年ほどで改めてそれらをゆっくりと読み進めていく機会を得て、これらの中にある新しい世界を覗くための取っ掛かりに気付け始めた。演習問題がそう潤沢ではないこのシリーズにおいて、1つ1つの問題で何かに気付く体験は貴重なものになると思う。
当時の自分がそうできなかったからこそ、このシリーズを使って(大いに悩まされながらも)勉強を進めている人たちに、”解き方”とは違う角度で、頭の中に浮かんだ”読み方”・”遊び方”の過程を文章で置いておきたいと思う。
ってわけで、今日は行列の問題でちょっと立ち止まってみる。

高専の数学2 練習問題14の問5(1)


\begin{equation*}
E=
\begin{pmatrix}
1 & 0 \\
0 & 1 \\
\end{pmatrix}
, \ \ J=
\begin{pmatrix}
0 & 1 \\
 -1 & 0 \\
\end{pmatrix}
\end{equation*}
として、$J^2$を求めよ。

答え

まず解答を示そう。

\begin{equation*}
J^2=
\begin{pmatrix}
0 & 1 \\
 -1 & 0 \\
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
 0 & 1 \\
 -1 & 0 \\
\end{pmatrix}
=
\begin{pmatrix}
 -1 & 0 \\
 0 & -1 \\
\end{pmatrix}
\end{equation*}

この問題の解答としてはこれで十分だけれど、この気付きは大切だ。


\begin{equation*}
J^2=
\begin{pmatrix}
 -1 & 0 \\
 0 & -1 \\
\end{pmatrix}
=-
\begin{pmatrix}
 1 & 0 \\
 0 & 1 \\
\end{pmatrix}
=-E
\end{equation*}

※問題を解く上では、こうしておくことで(2)をスムーズに解くことができる。

脱線の始まり

そして、この$J^2=-E$という式が、”この問題で少し遊んでみよう”というきっかけになる。
単位行列Eって、すごく意味のある行列だった。マイナスが掛かったとはいえ、2乗してその単位行列を作ることができたのだから、きっとこのJにも何か意味があるはずだ。
という希望をもってあれこれといじってみる。

単位行列を見つめる

まず、単位行列Eの性質を例14.2および公式14.2で確認する。

Aをn次の正方行列、単位行列Eについて
AE=A
EA=A
となる。

行列の正方行列の乗法について、
『左から掛けても右から掛けても、掛けた相手自身が積として出てくる。』
単位行列ってのはそういう行列だった。
そういえば、『左から掛けても右から掛けても、掛けた相手自身が積として出てくる。』ってどこかで見たことがある、と思い出す。
九九で体感したことのあるあれだ。
いんいちがいち、いんにがに、いんさんがさん、いんしがし・・・

aを実数とすると、
a×1=a
1×a=a
となる。

これを見比べて、こう予感する。
単位行列Eは行列の掛け算の世界で、実数の掛算での1の役割と同じ。

行列Jのお相手

ここで、$J^2=-E$をもう一度眺めなおしてみる。
単位行列Eが実数1に対応したことを考えれば、行列Jは$j^2=-1$を満たすようなjと同じ役割だろうと検討することができる。
$j^2=-1$をjについて解けば、$j=\pm \sqrt{-1}=\pm i$
虚数単位iが出てきてしまった。行列Jを今までに習った計算で登場した数に対応付けしようとすると、実数の世界では見つからないようだ。

念のため、実数→複素数

ここで、話を実数の世界から複素数の世界へ広げていく必要があるだろう。というわけで、もう一度掛け算について復習しなおそう。

cを複素数a+biとするとき、
c×1=c
1×c=c
となる。

相手が実数だろうと複素数だろうと、1をかけた相手に変化はない。ということは、2つ前の項の結論
単位行列Eは行列の掛け算の世界で、実数の掛算での1の役割と同じ。』
をこう言い直すことができる。
単位行列Eは行列の掛け算の世界で、複素数の掛算での1の役割と同じ。』

行列Jのお相手、虚数単位

というわけで、行列Jについて j=±i から、こう考える。(ここでプラスマイナスの記号については慌てずに置いておこう。)

『行列Jは行列の掛け算の世界で、複素数の掛算での ±i のどちらかと同じ役割だろう。』

では、行列Jと±iという複素数って本当に似た者同士なのか確かめてみる。

ここで、$\pm i$の逆数を求め、有理化してみよう。

 $ i^{-1}=\frac{1}{i}=\frac{1\times i}{i \times i}=\frac{i}{-1}=-i \\
(-i)^{-1}=\frac{1}{-i}=\frac{1\times i}{-i \times i}=\frac{i}{-(-1)}=\frac{i}{1}=i$

\pm iは逆数を取ると自身の±の符号を変える。
では、行列Jについて、(逆数を求めるという操作の代わりに)逆行列$J^{-1}$を求めてみよう。

\begin{equation*}
J^{-1}
=
{\begin{pmatrix}
0 & 1 \\
 -1 & 0 \\
\end{pmatrix}}^{-1}
\end{equation*}
   
\begin{equation*}
=\frac{1}{1}
\begin{pmatrix}
0 & -1 \\
 1 & 0 \\
\end{pmatrix}
\end{equation*}
   
\begin{equation*}
=-\begin{pmatrix}
0 & 1 \\
 -1 & 0 \\
\end{pmatrix}
\end{equation*}
   
\begin{equation*}
 =-J
\end{equation*}
ここで現れた-Jという行列についても同様に逆行列を求めてみる。

\begin{eqnarray*}
(-J)^{-1} &=
{\begin{pmatrix}
0 & -1 \\
 1 & 0 \\
\end{pmatrix}}^{-1}\\
 & =\frac{1}{1}
\begin{pmatrix}
0 & 1 \\
 -1 & 0 \\
\end{pmatrix}\\
\end{eqnarray*}
       
\begin{equation*}
=J
\end{equation*}

得られた予感

以上のことをまとめれば、

 $ J^{-1}=-J \\
(-J)^{-1}=J$

\pm iについては

 $ i^{-1}=-i \\
(-i)^{-1}=i$

だったことを考えれば、先ほどの
『行列Jは行列の掛け算の世界で、複素数の掛算での ±i のどちらかと同じ役割だろう。』
という検討を、行列-Jについても言及することで一歩進めることができる。
±Jは行列の掛け算の世界で、複素数の掛算での±iと同じ役割だろう。
※”行列Jがiに、-Jが-iに対応する”とは言ってないことに注意。あくまでもJと-Jの”ペア”がiと-iという”ペア”と同じ役割のように見えるということだ。


かくして、どうやら行列と複素数には何か関係がありそうだなあという予感を手に入れることができた。
いったん手を止めて、これをこの問の成果としておこうと思う。


この予感をもって第5章§15、そして次巻『高専の数学3』の第5章へと読み進めるととても楽しいことが待っている。
Jをあれこれと触ってみたこの体験が、”どうやら虚数は本当にあるらしい”という実感につながっていく。

参考

複素数を行列で書けないかなあという(この記事の方向とは逆に)アプローチすると・・・という議論を書いていらっしゃる方を発見。
 http://d.hatena.ne.jp/Robe/20090221
 ※読み進めていくとJの対応付けの相手が±iのどちらかに決まらなかった理由が見え隠れ。
 要するに、”えいや”っと、どちらに決めても上手くいく。
あれこれと調べていたら、和歌山大学 森杉先生のウェブサイトにたどり着いた。
ページ内の「複素数の世界」というpdfの第2章『複素数体について』。
 http://www.wakayama-u.ac.jp/~morisugi/
wikipediaだと、そのまま複素数の項を参考に。
 wikipedia:複素数

新編 高専の数学2 第2版・新装版

新編 高専の数学2 第2版・新装版

新編 高専の数学3 第2版・新装版

新編 高専の数学3 第2版・新装版

  • 作者: 田代嘉宏,難波完爾
  • 出版社/メーカー: 森北出版
  • 発売日: 2010/12/09
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
  • クリック: 2回
  • この商品を含むブログを見る

初投稿だったけれど

こまごま書かずに”直観”だとか”予感”だとか”同じ役割だろう”とかいったぼんやーりとした日本語で書き進めてみた。その分、毎回最後には、記事を書きながら読んだしっかりと数学の言葉で議論されたページのリンクを張っておこうと思う。